Chapter 589
地獄の親馬鹿衆、そう自ら名乗ってしまうほどに親馬鹿な義父さん達から、明らかな殺気を漏れ出す。ちょっと待ってくださいよ。今クロメルを安全なところに避難させますので、っと。
「愚息、早くクロメルを降ろさんか! 我々の殺気に当てられたらどうするつもりだ!?」
「殺気を飛ばす側の発言ではないですよね、それ!? でも、心配してくれてありがとうございます!」
地獄で数多の悪魔達から恐れられる義父さんからしても、クロメルは愛でる対象に入っているらしい。セラとの間の子供ではないんだが、孫は孫、という扱いなんだろうか? ともあれ、言われるがままに急いでクロメルを置いて障壁を設置。義父さん達が待つ場所へダッシュで戻る。
「セラとの孫はまだかセラとの孫はまだかしかしそれは手を出したという証であってやはり殺害対象にするべきであってよって殺すべしだが孫見たい■■■い!」
「義父さん、お願いですから落ち着いてください! あと息継ぎもして!」
朝から待っていた俺が来たのと、孫に当たるクロメルを目にした想い。更にはその愛がセラへと繋がり、義父さんのテンションはおかしな事になっていた。怒りと喜びが合わさって、後半の言葉が呪詛へと変わるほどに。
「クフフ、魔王様に代わって私がここで戦いについてご説明致しましょう」
「是非にお願いするよ、ビクトール。それと思ったより冷静だね、君ら。さっきまで義父さんと一緒に戦意を高めていなかったか?」
「セラ様ベル様、そして新たに孫として加わったクロメル様が関わると、魔王様は基本冷静さを保つ事ができませんから。上司に合わせてこその悪魔四天王ですよ。要は慣れです、慣れ。貴方もいずれは慣れる事でしょう」
「慣れで済ませて良いのか、それは? 後ろで義父さんに胴体ごと握り締められて、苦しんでるセバスデルがいるんだけど。鷲掴み状態なんだけど」
「彼は変態なので大丈夫です。あまりこういった事は言いたくありませんが、一種のご褒美なのでしょう」
「これがベルお嬢様相手なら確かにそうですがー! これはちょっとーーー!」
「……何か悲痛な叫びが聞こえるけど?」
「まあまあ、そう言わずに。では、早速説明に移らせて頂きましょう」
流しやがった! ラインハルトとベガルゼルドも、普段の行いがちょっとアレだからまあ良いか、みたいなノリだ! ……ああ、そうか。そう考えれば別に良いのか。了解了解。
俺が勝手に納得したところで、ビクトールはその大きな口を上向きに開けて自らの手を突っ込み、何かをそこから取り出した。皆普通に受け入れているけどさ、口から出すのはどうかと思うよ?
「ご安心を、私の唾液で汚れるような事はありませんので。先日食した『保管』スキルを使っているのです」
「うん、そうだろうとは思ってた。それは模型か?」
「その通り、此度の戦いのテーマはこれですよ」
テーマとな? 模型の頭の部分は尖っていて細長い。それでいて、どこかで見た事があるような気がする。この禍々しく悪魔的なデザイン、正に地獄だ。あ、これってあの塔なんじゃ…… ええと、名前は確か―――
「―――『試練の塔』、だったか? ビクトールと2度目の戦いをして、義父さんとも戦った、あの?」
「流石はセラ様がお選びになった方だ。良い記憶力をなさっている。そう、これは試練の塔のミニチュア、現物に似せてラインハルトに作ってもらったものです。そして今、その役割を終えました」
そう言ってビクトールは、塔の模型はバクリと食べてしまった。バリボリ鳴っているあたり、保管に入れたのではなくマジで食ってる。え、俺に試練の内容は悟らせる為だけにそれ作らせたの!? 製作者のラインハルト的にそれは良いのか!? 同僚に作品を食われてしまったラインハルトの方へと、恐る恐る視線を向ける。
「ええでええで、芸術は破壊と表裏一体やからな。逆説的に、あの作品はあの瞬間に完成したんや。わいは満足しとる」
「へ、へえ」
俺が思っていた以上に、ラインハルトは芸術家肌であったようだ。そうこうしているうちにビクトールが完食。更に彼らの背後ではセバスデルがピンチ。医者であるらしいベガルゼルドが、まだ大丈夫だと義父さんに合図を送っている。
「クフフ、説明を再開致しましょう。もうお察しだと存じますが、ここでのテーマは試練の塔の再演です。以前グレルバレルカにて貴方が挑戦したのは、ラインハルトとベガルゼルドが不在の不完全なものでしたからね。本当であれば塔もここに建築したかったのですが、何分知らせが急であったが為に間にあいませんでした。その一点だけは無念です……!」
あー、たぶんセラとシュトラが気を利かしてギリギリに知らせたんだろう。セラのお願いを義父さんやビクトールが断る筈がないし、本当に建てられたらいい迷惑である。
「って事はだ、一斉にじゃなく順番に戦う感じか?」
「基本的にはそうしようかと。ここより前の試練の詳細を拝見させて頂きましたが、どれも貴方にハンデを負わせて戦うものばかりでした。だとすれば、そろそろ貴方も真っ当に戦いたい頃合いでしょう? 如何ですか、バトルジャンキーさん?」
分かってますよと、ビクトールがその大口で笑みを表現する。しかしビクトール、いつの間に俺の理解者になってくれたのやら。これもセラの入れ知恵だろうか? どちらにせよ、制限なしで戦わせてくれるのは嬉しい事だ。
「パパ、まだ大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。というより、このチェックポイントは俺独力で突破しないと、義父さんが認めてくれそうにない。流石に首トン一発で倒せる相手じゃないけどさ」
手で制し、問題ない事をクロメルに伝える。そんな事をしているうちに、向こうから蛇型の悪魔、ラインハルトが前に出て来た。
「まずはわいからや。猛毒の試練担当、
「ああ、こいやぁっ!」
それから俺は、悪魔四天王の面々と真っ当に戦う事となる。リオンから聞いた話を活かし、ラインハルトのスケッチブックを初手で強奪。体中から毒は放出されてぶっ掛けられるも、かつてグロスティーナから嫌ってほど猛毒を浴びせられた俺にとってはもう慣れたもの。治療よりも倒す事を優先し、まずはラインハルトの意識を刈り取る。さて、ゆっくり治すと―――
「―――おうおう、ラインハルトをよくもやってくれたじゃねぇか! お次は怪力の試練、
「ちょ、治療する暇もなしかっ!?」
「いんや、俺が治療してやるっつってんだ! 逆に悪化させる事になるけどなぁ!」
ベガルゼルドの光る手は本来、医療行為に使用されるものだ。但し、今の俺とあいつは敵同士。素直に治すような甘い事はしないだろう。過ぎた薬は毒となる、それと同じで毒性を強化されたら堪らないので、風を篭めた格闘術にてお相手し、奴に攻撃する暇を与えない事にした。一方的に殴り蹴り、圧倒的な手数で蹂躙する。時間にしてみれば一瞬なもので、ベガルゼルドは戦場から吹き飛ばされる。
「クフフ、流石ですね! どうやら、私達1人1人では相手にならない様子! ならばこうしましょう。ここからは暴食の試練、
「ふぅ、ふぅ……! し、死の淵から蘇った私の
1対2なのは歓迎するけど、既にビクトールの相方が死にそうだ。